微細加工、精密加工の技術は半導体や電子部品業界、ナノバイオテクノロジーの研究などあらゆる産業分野で必要とされています。
日本国内では20万社を超えるとされる、精密加工技術を有するそれらの企業のほとんどは中小零細企業で工程別にサプライチェーンを形成、それぞれが重要な役割を担っています。
日本の精密加工技術は世界でもトップクラスで、多くの海外製品でも日本企業が製作した部品が使われています。(※米Apple社「iPhone」の電子部品のうち50%が日本製だといわれています。)
ここでは精密加工にどのような技術があるか、日本の精密加工のレベルがどのようなものなのかご紹介していきます。
精密加工と微細加工の違い
まずは「精密加工」と「微細加工」などの言葉の違いについて。
言葉の意味としてはそれぞれ、
- 微細加工・・・「とても細かく小さく」加工すること。
- 精密加工・・・「厳しい精度・公差」で加工すること。
となり、よく混同されて似たようなケースで使われています。
精密加工では微細加工も行われるケースもありますが、一般的には精密加工よりも微細加工の方が加工が細かいケースで使われます。
数値で表した場合、一般社団法人微細加工工業会の定義では微細加工領域は「0.001mm~1mm」としていますがその定義は、細かさのことなのか精度(正確さ)のことなのかについての言及はありません。
実際には、100μm未満からを微細加工の領域とされており、精密加工に関しては最大で1μmまでの加工精度として使われることが多く、100~1μmの領域では精密加工であり微細加工でもあります。
精密加工に対して、超精密加工では1μm~最大1/1000μm(1nm)を達成できる加工技術のことをいい、さらにnm(ナノメートル)台の精度、もしくは±1μm以下の超精密加工が可能な技術を「ナノ加工」と言います。
ただし業界に明確な定義があるわけではなく、企業ごとに微細加工、精密加工、超精密加工、ナノ加工の基準は異なる場合があります。
超微細加工が可能なフェムト秒レーザー加工
レーザー加工とはレーザー光を微小な点に集めて加工する非接触型の加工法で、刃物で加工した時のように、粉じんの付着や加工面のバリなどが出ず、歪みやひび割れなどもない美しい仕上がりになります。
樹脂や金属はもちろん、石材、木材、紙、皮、布、ゴム、ガラス、セラミックの他、一般的に加工が困難とされる高融点材料や耐熱合金類、宝石やダイヤモンドのような高脆弱材料など多くの素材の加工が可能です。
その中でも、フェムト秒レーザーは、パルス幅が100fs(フェムト秒)の超短パルス発振レーザーで、照射による熱が材料に伝わる前に照射が終わるため、従来のレーザー加工のように熱の影響によるクラックやデブリが発生しません。
焦点近傍では大きなレーザー強度が得られるため、強度の強い箇所だけを加工に利用することで、波長以下のナノレベルの超微細加工が可能です。
微細加工の範囲は細胞のコントロールやマイクロ流体デバイスの応用に最適な範囲です。
加工速度が遅いというレーザー加工のデメリットはフェムト秒レーザー加工の技術でも同じですが、2018年、東京大学はフェムト秒レーザー加工によるガラス微細加工を従来の5,000倍速くする開発に成功しています。
これにより直径10μm、深さ約150μmの微細孔の加工を0.04msの時間で達成しました。
ナノインプリント技術
「光リソグラフィー」や「電子線リソグラフィー」では加工サイズの限界や時間がかかりすぎるといった課題があったことから、2017年、NIMSと東北大が光リソグラフィーや電子線リソグラフィーなどでも困難な超微細なパターンを短時間で刻むことができる「ナノインプリントリソグラフィー」(NIL)という技術を開発、ミクロンから10nmのパターンを金属に刻むことが可能で、負の屈折率を持つ性質を持つ「光メタマテリアル」特性を示すパターンを世界で初めて作成することに成功しています。
光メタマテリアルは透明マントや完全レンズを可能にする理論上の物質です。
NIMSと東北大が可能にした、ナノインプリントリソグラフィー技術は下の動画で詳しく紹介されています。
ナノインプリントリソグラフィーの技術は2021年より、大日本印刷、キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)、キヤノンの3社が共同開発中で、現在回路線幅5ナノメートルノードまでを可能としており、回路欠陥の発生などの現状の複数の課題を解決した上で、2025年に実用化、量産を目指しています。
半導体製造の消費電力も極端紫外線(EUV)露光の1/10に削減することが可能で、その微細化の技術は今後も半導体業界でさらなる向上が期待されています。
世界一の加工精度を誇る工作機械メーカー「ナガセインテグレックス」
工作機械はあらゆる全ての機械を構成する部品を作り出す機械の原点のような存在であるため、マザーマシンとも呼ばれています。
この工作機械の技術は、日本は世界トップレベルを誇っており、中でも岐阜県関市にある工作機械製造メーカー「株式会社ナガセインテグレックス」は、「多面拘束非接触油静圧摺動面構造」を世界で初めて開発、同社で販売する全ての工作機械の案内面に採用しています。
これにより、1nm(1/1000μm)の制御を実現、非軸対称・非球面レンズ等の鏡面を研削加工で高速に仕上げることができるため、鏡面は非球面で、形状精度0.15μm p-v以下、表面粗さ2.5nm rms以下といった高い光学精度が必要になる次世代超大型望遠鏡の分割鏡の制作にも用いられています。
研削のみで形状誤差は200nm、面粗さは50nmを誇る、ハワイにある「すばる望遠鏡」のレンズの他は、導入された各企業の機密事項に当たるため同社の実績を表に出せるものは少ないとのことです。
同社の微細加工機では、0.3nmの位置決め精度を誇り、6軸加工機では2.7nmの加工精度と0.4μmの真直度(1,500mm)、直径400mmの非球面レンズで0.11μmの形状精度を実現することから、超精密金型の部品加工を実現しています。
微細造形が可能な3Dプリント技術
ミクロンレベルの微細構造を実現する造形技術、実は3Dプリンターでも可能です。
広島県を本社として全国に支店を持つ株式会社キャステムは、最小形状寸法0.2×0.2×0.3μmの超微細造形を可能とする3Dプリントサービスを展開しています。
「世界最高精度」をうたう3D光造形装置(Nanoscribeのシステム)を利用した超微細プリントサービスで、同社サービスサイトでは滑らかな表面を持つ超微細な半球のマイクロレンズや髪の毛の上に乗る戦艦大和などのサンプルが紹介されています。
株式会社キャステムHP
最大造形サイズは400㎣までになりますが、バイオテクノロジーや、光学、医療など様々な研究に活用できるサービスです。
微細構造を造形できる3Dプリンターとして、もう少し現実的な最大造形サイズや造形スピードを可能としたモデルに、オルテコーポレーションが販売するBMF社の3Dプリンターが有名です。
オルテコーポレーションHP
2μから10μの精度での高速造形が可能で、最大造形サイズは50×50×50mmとなっています。
医療業界や研究機関に最適なバランスのとれた性能で、マイクロ流路(マイクロ流体デバイス)やマイクロニードルの作製など多くの実績があります。