2023年度から世界的に注目を集めている生成AI。近年では人工知能(AI)と3Dプリンターの融合が話題になっています。AIと3Dプリンターの組み合わせは、新しい製造業の形を創り出しています。これらの技術は、製品設計から製造までの流れを劇的に改良し、より効率的で柔軟な生産方法を可能にしています。
従来のロケット開発について
従来のロケット開発は、非常に複雑で時間とコストのかかるプロセスです。主に政府機関や大手航空宇宙企業が担ってきました。
ロケットの作り方
設計段階:目的に応じたロケットの仕様を決定
部品製造:エンジン、燃料タンク、構造体などの製造
組み立て:各部品を統合してロケット本体を構築
テスト:地上でのエンジンテストや各種システムチェック
打ち上げ準備:射場への輸送と最終チェック
ロケットの開発コスト
コストに関しては、従来の大型ロケットの開発には数十億ドル規模の投資が必要とされ、1回の打ち上げコストも数億ドルに達することがあります。
ロケットの製造コストは非常に高額で、具体的な数字は以下のようになっています。
- 従来の使い捨てロケットの場合、1機あたりの製造コストは数十億円から100億円程度かかります。これは、高度な技術と高品質な材料が必要なためです。
- 日本の現行基幹ロケット「H2A」の打ち上げ費用は約100億円とされています。この費用には製造コストだけでなく、打ち上げ作業や関連サービスの費用も含まれています。
- 新型基幹ロケット「H3」は、コスト削減を目指して開発されましたが、それでも打ち上げ費用は約50億円程度と推定されています。
- 再使用型ロケットの開発が進められており、日本政府は2030年頃に打ち上げ費用をH3の約半分(約25億円)にする計画を立てています。
- さらに長期的には、2040年前半までに打ち上げ費用をH3の約10分の1にすることを目指しています。
ロケット製造のコストが高い理由
- 高度な技術と専門知識が必要
- 高品質な材料の使用
- 厳密な品質管理と安全性確保のための検査
- 小ロット生産による量産効果の欠如
コスト削減のために、再使用型ロケットの開発や製造プロセスの効率化、部品の共通化などが進められています。しかし、世界的な競争が激化しており、さらなるコスト削減が求められている状況です。
ロケットの開発期間
既存のロケットの製造と打ち上げ準備には、注文から1〜2年程度要することが一般的です。 ただし、近年はSpaceXなどの民間企業が再利用可能ロケットの開発や製造プロセスの効率化により、コストと納期の大幅な削減に成功しています。これにより、宇宙開発の新たな時代が開かれつつあります。新型ロケットの開発には通常5〜10年程度かかります。
ロケットの軽量化技術
- 先進的な材料の使用:マグネシウム合金の積層造形技術が注目されています。JAXAと複数の企業が協力して、この技術の開発を進めています。マグネシウム合金は軽量で強度が高く、ロケットの構造部材として有望です。
- 構造設計の最適化:ロケットの構造重量を軽くすることで、打ち上げ能力を向上させることができます。コンピューターシミュレーションや解析技術を駆使して、強度を保ちながら可能な限り軽量化を図ります。
- 電子機器の軽量化:イプシロンロケットの例では、電子機器の軽量化が進められています。最新の小型・軽量な電子部品を採用し、機器全体の重量を削減しています。
- 推進システムの改良:固体ロケットモータの性能向上や、より効率的な液体エンジンの開発により、推進システム全体の軽量化が図られています。
- 複合材料の活用:炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの軽量で高強度な複合材料を、ロケットの構造部材に採用することで軽量化を実現しています。
- 3Dプリンティング技術:複雑な形状の部品を一体成形することで、接合部を減らし、全体的な重量を削減する取り組みも行われています。
これらの技術を組み合わせることで、ロケットの軽量化が進められています。軽量化は打ち上げ能力の向上だけでなく、コスト削減にも直結する重要な要素です。日本の宇宙産業が国際競争力を高めるためには、これらの軽量化技術の更なる発展が不可欠です。
AIと3Dプリンターの組み合わせの利点
AIと3Dプリンターの組み合わせには、既に多くの企業が注目しています。例えば、自動車メーカーのフォルクスワーゲンでは、他の車種のパーツの形状や強度などをAIに学習させ、最適なデザインを作成し、3Dプリンターで製作する取り組みを行っています。
さらに、ユーザーが作りたい製品のイメージ画像をAIが解析し、設計データを自動作成することで、似た製品を3Dプリンターで製作できるサービスも存在しています。
AIと3Dプリンターの組み合わせが提供するメリット
- 設計データの自動作成:AIはさまざまなパターンの設計データを自動で作成できます。AIが作成した設計データを3Dプリンターで製作することで、製品開発の高速化が可能です。
- パラメーターの自動調整:AIを搭載した3Dプリンターは、過去の造形結果をもとに学習することで設計データの寸法やパラメーターを自動で調整できます。
- 造形中の自動制御:AIを搭載した3Dプリンターは、造形中の動作を自動で制御して造形品質を高めることもできます。
このようなメリットにより、製品の設計から製造までのプロセスが劇的に改善され、より効率的で柔軟な生産方法が可能になります。これは製造業における大きな革新と言えるでしょう。
設計から製造までのプロセスが大きく変わりつつあります。これは、AIと3Dプリンターの組み合わせが提供する新たな可能性によるものです。
AIで製作したモデルによる3Dプリントロケットエンジンの試験に成功した事例
2024年6月18日、人工知能(AI)エンジニアリング企業LEAP 71は、全自動で設計・製造した3Dプリントの液体ロケットエンジンの試験に成功したと発表しました。LEAP 71が開発した大規模計算エンジニアリングモデル「Noyron」により、エンジンは人間の介入なく設計され、銅で3Dプリントされました。
このエンジンは、推力5kN(500kg/1124lbf)を発生し、期待された20,000馬力を達成しました。長時間の燃焼を含むすべてのテストを完了しました。LEAP 71のジョセフィン・リスナー氏は、「これは私たちにとって、さらに言えば全業界にとって重要な節目です。我々は今、機能するロケットスラスターを自動的に作り出し、実用的な検証へと直接進むことができます。最終仕様から製造まで、このエンジンの設計には2週間未満しかかかりませんでした。伝統的なエンジニアリングでは、これは何ヶ月も、あるいは数年もの課題となるでしょう。新たなエンジンのイテレーションは数分しかかかりません。宇宙推進のイノベーションは難しく、高価です。私たちのアプローチにより、宇宙を皆さんにもっと身近に感じていただけることを願っています。」と語っています。
このエンジンは、液体酸素(LOX)とケロシンを推進剤として使用します。銅製の燃焼室は再生冷却され、インジェクターヘッドには最先端の同軸スワラーが装備されています。
LEAP 71の共同創設者であるリン・ケイザー氏は、「我々の会社は、高度な機械が手作業なく設計できる新たな分野である、計算エンジニアリングの最前線に立っています。このパラダイムは、現実世界の物体に対するイノベーションのペースを大幅に加速します。Noyronスラスターが初回の試験で正常に動作したという事実は、このアプローチが機能していることを確認します。この方法は、どのエンジニアリングの分野にも適用できます。」と述べています。
このように、AIを駆使した新たなロケットエンジン設計により、宇宙開発の新たな可能性が広がりつつあります。LEAP 71の取り組みは、今後の宇宙開発にとって大きな一歩となるでしょう。
まとめ
AIと3Dプリンターの組み合わせは、製造業から宇宙開発まで、多くの分野で新たな可能性を開きつつあります。これらの技術の発展により、製品の設計から製造までが大幅に効率化され、より高度な製品を迅速に生産することが可能になるでしょう。今後もAIと3Dプリンターの技術進化に期待が寄せられます。