乳がんは日本女性にとって最も多いがんであり、2021年の罹患者数は94,400人に上ることが予測されています。30代後半から急増し、30~64歳の女性ではがんによる死亡数で1位となっています。働きざかり・子育て世代の比較的若い世代もかかるため、自己触診や乳がん検診を受けることがとても大切です。
この乳がんは、米国においても第2位を記録するほどの、発症例の多い病気とされています。
乳がんが増加した要因として、欧米化した食生活や女性の社会進出があると考えられていますが、乳がんの原因はまだ解明されていません。
しかしながら、乳がんは早期に発見すれば治るがんであるため、自己触診や乳がん検診を受けることがとても大切です。
またオーストラリアの総合乳がん研究所が、3Dプリンターで作成した足場を用いて自分自身の脂肪組織を再建する手術を行っています。この手術は、豊胸手術による合併症を避けるため、乳がんの患者さんにとって画期的なものになる可能性があります。この技術はまだ実験段階ですが、成功すれば世界中の女性に大きな影響を与えることができるとされています。
この情報については、以下の動画で語られています。
乳がんの発症理由
乳がんを発症するリスクを高める因子には、食生活やライフスタイルが挙げられます。
高タンパク・高脂肪の食事が増えて体格が良くなり、初潮が早く閉経は遅い人が増えました。さらに、女性の社会進出の増加によって、妊娠・出産を経験する人が減少し、女性が生涯に経験する月経の回数が多くなりました。月経中はエストロゲンが多量に分泌されるため、この回数が増えたことが、乳がんの発生と進行に影響を及ぼしているとされています。
乳がんは早期発見が重要で、発見が早ければ、10年相対生存率は99%以上になります。そのため、自己触診や乳がん検診を受けることがとても大切です。年齢別乳がん罹患率を見ても、30代後半から急増し、40~50代でピークになっています。また、閉経後の60歳台前半でも再びピークを迎えます。乳がんは、女性の働き盛りを襲う疾患であることを示しています。
乳がんの基礎
乳房は組織を作っているじん帯と脂肪、それらに守られた乳腺葉、乳頭へつながる乳管という4つの部分で構成されています。
乳がんが発生しやすい場所は、乳房の外側の上部、次に内側の上の方、外側の下部、乳首付近という順になっています。
女性が多いとされていますが、近年男性にも乳がんが発症するケースが増えています。男性の場合は治療がうまくいかない場合が多いことが知られています。
乳がんでの死亡例はがんの中で第4位となっており、全体統計では14803人(2021年)となっています。
乳がん手術の後遺症
わきの下のリンパ節に転移が認められた場合は、乳がんの切除に加えて、わきの下のリンパ節をすべて取り除く必要があります。
その関係で後遺症が出るのですが、最も多いのがリンパ浮腫です。
リンパ浮腫とは、切除したほうの腕にリンパ液が蓄積して、腕が重くなったり、手に力が入りにくくなったりします。
初期症状はこのような感じですが、悪化すると腕が腫れあがり、皮膚潰瘍などの合併症が起きます。
重症化すると従来の方法では治療が難しいとされています。
これが早期に治療を勧められる理由です。
手術後は傷跡が残ったり、放射線療法を必要としない場合では、退院後1~2週間で仕事に復帰できる人もいますが、力仕事などをして腕に強い負荷をかけてしまうとリンパ浮腫になる可能性を高めてしまったり、運動障害を併発するため注意が必要とされています。
乳がんの問題点
乳がんは10年経過しても突然再発することがあります。そのため、半年~1年に一度の検診を継続するのが一般的とされています。
乳房再建における3Dプリンティングの背景
2011年にメルチェルズらが、乳房の3Dモデルを構築するために、コンピューターの技術支援を受けました。2013年にポリプロピレンメッシュケージをうさぎの両側脂肪体に移植して、実験を続けました。みじん切りにしたI型コラーゲンスポンジをケージに注入して足場を作製しました。
その後12カ月間で組織の再生が起こっていることが確認されています。
インプラントは乳房の形状と一致せず、軟組織と置き換えるには硬すぎたという問題もありましたが、バイオプリントの新たな概念を表明することとなりました。
ここまできて美容上の問題とは別に、乳房再建のための3Dプリントにおいて更なる工学的な問題が生じました。
インプラントが小さすぎると、乳房の最適な形状を維持できなかったのです。
これにより、組織の再生も制限されてしまいました。
解決策はもちろん確立されています。
女性の乳房の形状に類似するアクリル製の多孔質チャンバーを設計して、血管新生組織とともに豚に移植したのです。
6週間後、血管新生組織で満たされたインプラントを作製することに成功しました。
品質的には、人間の乳房再建に必要な体積を十分に満たしているということです。
移植後の組織は崩れずに、長期間形状を維持できるようになりました。
しかしここでも課題が出てきました。
質感が硬い、主成分が線維組織のみで、内部脂肪が少ないなどの問題があったのです。
実際に人体に移植する基準は厳格で、美容上の形状のクリアだけではなく、機械的特性が本物の人間の組織と実質的に一致している必要があります。
2016年に、多層網状のポリカプロラクトン足場をミニブタの腺下ポケットに移植し、2週間ごとに少量の脂肪を注射しました。
結果、脂肪の注入を遅らせることで、脂肪壊死を回避できました。
これにより生体適合性と機械的特性の両方の問題を打開しました。
これから、脂肪組織の生存とその後の再生が保障されました。
血管新生を刺激し、組織の再生に役割を果たすさまざまな成長因子の局所微環境を最適化する技術です。
この手法を、乳がんのあるマウスに行ったところ、14日後にがんの腫瘍サイズが大幅に小さくなりました。
そして、ヒト乳房上皮細胞を足場に移植して、7日で培養を試みました。
結果は、足場が足場が乳房上皮細胞の増殖をサポートできることを示しました。
PDA 足場は他の生体医工学分野で使用されており、将来的には、局所乳がんの再発リスクを軽減するという、追加の利点を備え、乳房再建に役立てたいとしています。
3Dプリントにおける臨床実験の悩み
3Dプリンティング技術の出現により、外科医が患者に合わせたサイズや形状にあわせて適切な施術を行うことが出来るようになってきました。
しかしながら、乳房構築のための材料、形状、構造の問題で製品上の限界を迎えているケースがあります。
乳房の非対称性や被膜収縮など、従来の再建と同じ問題に悩まされているのです。
CADを使って欠損のシミュレーション、測定を行い、乳房再建には生分解性素材を組み込むことが決定されています。
材料は生体適合性および生分解性ポリマーであるポリカプロラクトンです。
乳房再建における3Dプリンティングのあり方
患者は特に多い病とされていますが、乳房組織に関する機能要件はあまり高くはないため、組織としての適合性と美容的問題が解決すれば、一番の課題である機械的問題を考えることは必須ではありません。
もちろん、患者の要望によりますが、基本的には形状がしっかりと維持できていて、しっかりと生きた細胞として機能していることが大切と考えられています。
DLP方式におけるバイオプリント
イスラエルとアメリカに拠点を置くストラタシスは、コラーゲンをベースとした臓器3Dプリントに力を入れており、乳房の再建にも力を入れています。
こちらは光造形(DLP方式)の3Dプリンターを使ったもので、素材はCollPlantのバイオインクを使っています。
一般的なシリコンインプラントは合併症が指摘されていました。また、脂肪注入の方法では適応できる人に条件があることから、だれにでも同じ療法を適応できないという欠点がありました。
こちらのバイオインクによるインプラントは乳房組織も再生し、免疫反応も起こっていません。
3カ月後には組織再生の進行が確認され、美容と再建の両方が認められると考えられており、今後ヒトへの臨床実験を行う見込みです。
日本での3Dプリンターによる乳房再建
ここまで海外の事例を主に挙げてきましたが、実は日本でも乳房の再建に関する研究が進んでいます。この試みを行っている会社の例として、テクダイヤ株式会社があります。この会社では近年増加傾向の乳がん手術のための特殊加工されたディスペンサーノズルを用いて、乳房再建に貢献しています。
従来のインプラント交換の必要性や傷跡が残らないようにする課題に適応するために日々試行錯誤しています。
テクダイヤ製ディスペンサーノズルを使うことにより150μmレベルの造形を可能としています。弊社がプリントサイズが最小2μmであるので、それよりも幾分か造形サイズは大きめとなっています。
乳房の再建の課題と現状
人体とジョイントする上では精密さと実用性が最も大切であるため、求められる品質をクリアしていれば良いことになります。そのためには必ずしも高額な3Dプリンターが必要というわけではなく、ものによってはそれほど高い精度を必要としない場合があります。
しかしながら人体に関わる部分では、組織と酷似した細胞のサイズとほぼ一致していることが認められる必要があります。
病気で社会復帰が困難にならないように、最大限医療で患者をサポートできることが理想的です。
また、インプラントの入れ替えがなく、患者への負担が少ないことも大切です。
まとめ
乳がんは多くの女性から男性まで発症する病気で、決して女性だけの病気ではありません。従来の方式では乳房の形状や機能を患者別に満足させることが難しかった背景がありますが、それは3Dプリンターにおける研究段階でも同じです。しかしながら、従来よりも簡易的に時間とコストを抑えた製作をできるようになったことは確かであり、生体適合性も満足のいく結果で、機械的特性以外は実用性があるというところまで来ています。
これは海外でも日本でも研究が進められており、乳房再建に向けて、課題を打開しようとしています。3Dプリンターはこのような日本で最も多い病から人を救う、新たな架け橋となるでしょう。