医療分野はテクノロジーの発達とともに進化し、数多くの患者を救うために役立ってきました。
3Dプリンターが医療分野で活躍を始めたのは2013年のころです。
ちょうど最終製品が精巧に作ることが出来るようになったことで台に上がり、3Dプリンターブームを起こしたという年になります。
今回は、そんな3Dプリンターの医療分野で今後どのように活躍していくことが期待されているのか、歴史や技術的な面を含めてお伝えしていきたいと思います。
2013年時点での技術と期待
導入事例については日本国内、海外問わず事例があります。
海外での事例をあげると、アメリカで生体材料と細胞を活用することによって、移植を前提とした臓器を3Dプリントするという試みでした。課題としては、体内で長時間使えること、肝臓や神経細胞などの「患者から取り出すことが不可能」な部位の存在、血管のプリントなどでした。当時はこれらの臨床実験が進まないということから、なかなか研究が進行しませんでした。このような課題解決のために、あらゆるテクノロジーを駆使して、実用化に向けた研究が行われました。
研究に協力した患者は、二分脊椎症という、先天的に脊髄が正常な形になっていない病気を持っていました。
それにより、肝臓と膀胱が機能不全に陥っていましたが、患者自身の細胞を活用し、3Dプリンターによって作られた膀胱によって、20年が経過した今でも、元気に生活を続けているようです。
日本では外科の手技向上に応用されていました。
CTスキャンを行った患者の生態データから、臓器の内部構造を3Dプリンターで出力するのです。
そこからできた臓器を使うことによって、手術本番前にシミュレーションを行うことが出来ます。
これにより、手術の成功率を上げたと言います。
画像のみでメスで切る場所を選定するよりも、正確に臓器の特徴をつかみやすいため、執刀(しっとう)する場所周辺への影響なども予想が立つというわけです。
このように、日本は手技の向上に対して、海外では細胞そのもののプリントと、活用方法にだいぶ違いが出ていますが、現在ではどのようになっているのでしょうか。
現代の医療での3Dプリンターの活躍
現在最も日本で注目されている医療分野は、がんの治療です。2013年時点の手技の向上により、がん細胞を正確に切除するという目的として使う場合もありますが、患者の細胞を培養して、投薬実験なども行っています。これにより、患者に投与する前に、効果や副作用を確かめることが出来る点では、かなり重宝されます。
がん治療以外での活躍について
導入の事例
- 手術支援
- 医療機器の生成
- インプラント
手術支援については、CTにより臓器のモデルをプリントして、手術前に利用する、または臨床実験などに使うものです。
医療機器というとピンと来ないかもしれませんが、主に義手や義足などの義肢になります。
インプラントは人体に埋め込むことを前提として作られた、再生医療専用の部品です。
今まで導入された医療分野
- 外科
- 歯科医療
- 介護
- 呼吸器内科
医療分野で3Dプリンターを活用するメリット
モデルデータと材料さえあれば、構造が複雑なものでも創り出すことが出来ます。主に医療器具は小ロット品やオーダーメード品が多く、単価が高くなりやすいです。
即座に製品のモデルを作成に取り掛かったり、製品本体の造形に取り掛かることができ、造形完了まで1日というのが一般的です。
また、業務用3Dプリンターでは医療分野に特化したものを利用することにより、高精度かつ、小型化まで行えます。
そして先述した通り、患者のコピーを造形することにより、手術前に患者への手術の確認をしたり、薬の効果や副作用を確かめることが可能です。
歯科医療での歯列模型
3Dプリンターは、歯の治療では欠かせない、歯列模型やマウスピース用の型の製作にも使われています。データに関しては、口腔内スキャナーやCT、MRIなどから抽出します。
精度の高い3Dプリンターを取り入れることにより、より複雑で正確な形状を再現できるため、歯科医療における手術支援に寄与しています。
また、義歯を作る技術は2022年に実現しており、現在では、3Dプリンターを使った総入れ歯が可能になっています。
オルテ製品での医療事例
オルテで取り扱っている業務用光造形3Dプリンターを活用して、プリントされた事例については以下のようになります。実験室レベルでの成果になりますが参考にしてみてください。
- 内視鏡ハウジング
- ステント
- 注射針(シリンジニードル)
マイクロスケールで4時間ほどで精密プリントが完了する3Dプリンターですが、樹脂またはセラミックで対応できるものであれば様々な分野で活躍ができます。
その一例として医療分野での実験がありますが、金属から樹脂にすることによって柔軟性をもつことができるようになっています。
その例としてステントがあります。
ステントは、血管などの管状の部分を内部から拡げて、血流や血圧を改善するための医療器具として日本でも使わています。
多くが金属で作られている中で、樹脂を使ったことは画期的でした。
そのため、人間の手で作ることは困難であり、精密なレーザー加工が必要なため、高額になりやすく、金属のため硬いです。
それを加味すると、柔軟性に優れ、低コストでこのサイズの製品を作れたのは誇らしき技術ですよね。
医療器具はどのくらいの精度、精密さが必要か
医療器具は主に不具合が生じた場合においての痛みの度合いによって、医療機器が分類されています。
医薬品医療機器総合機構によると、区分は以下のようになります。
国際分類 | 分類 | リスク |
クラスⅠ | 一般医療機器 | 極めて低い |
クラスⅡ | 管理医療機器 | 低い |
クラスⅢ | 高度管理医療機器 | 中・高 |
クラスⅣ | 高度管理医療機器 | 中・高 |
主に医療器具の審査は、性能、機能、有効性で厚生労働省により判断されます。小型になるほど、人が感じる痛みは小さなものとなり、リスクが低くなります。
アメリカやEUなどよりも医療器具の承認実績が速い日本ですが、安全性の評価はやはり厳しいので、細かなプリントが行える3Dプリンターは低侵襲を実現しやすいため、人が視認できる範囲(肉眼で0.1mm(100μm)まで)で、かつ小型のものが良いとされます。
オルテの製品では、2μメートルまで調節可能ですので、目に見えない範囲で細かな目でプリントし、積み重ねた結果、肉眼で見える範囲までもっていくことは可能です。
これにより、人工血管などの液漏れが問題になる部分での活躍も期待できます。
医療器具を3Dプリントしたときの料金
良い技術を知ったり、思いついたりしたけれど、料金面で実用化を見送るなんてことはよくあるはなしです。
3Dプリンターの活用によって、手術の成功率が高くなるのでああれば、導入したいところですが、料金がやはり気になるところです。
まず、3Dプリンターに関連する医療分野は次のようなものが挙げられます。
- 内科
- 整形外科
- 耳鼻科
- 眼科
内科
CTやMRIにより、断層写真を縦に重ねて立体的なデータを作ります。
X線は1枚写真のため、3Dプリンターでは使うことはできませんが、CTやMRIがあれば事足ります。
山梨大学によると、プリントした肝臓のモデルの腫瘍に対して着色することにより、明確化することによって診断の精度を上げています。
プリントの相場としては5500円からとなっています。
整形外科
内科と同様の方法でデータを採取して、モデルを作ります。主に手術前の模型をプリントし、模擬手術や、切る場所の選定に使うことで、手術の成功率を格段に上げます。
プリントの相場としては5500円からとなっています。
耳鼻科
主に耳科の手術練習のために、頭部をプリントしたものを使っています。山形大学では、従来のモデルでは中鼓室から上鼓室まで、死角となる部分を含んで、微細構造の再現が難しかったのです。
3Dプリンターの活用により、解剖学における指標が分かりやすくなっています。専用の受託サービスはありませんが、受託サービスを利用しない場合は、材料費に帰属します。樹脂1つあたり2000~3000円ですので、フルに使ったとしても、それほど費用は掛かりません。
眼科
義眼を作るために利用されています。眼球の解剖構造を再現するのは困難とされていましたが、現在では再現が可能になりました。これにより製薬会社の開発の進展に直結しています。通常、義眼を作るとなると日本義眼研究所によると、オーダーメイドで12万円ほどかかりますが、これが材料費の範囲となるので2000円~3000円以内で作ることができます。
経済産業省の支援事例
2020年5月21日に、新潟病院が人工呼吸器を含めた3Dプリンターによるプロジェクトの支援を、経済産業省が行った事例があります。これは緊急性の関係が加味していることが背景にありますが、3Dプリンターでの医療技術は国の機関が支援するほど、未来への期待が高まっているものとなっています。
医療での3Dプリンターの課題
従来の金型加工よりも3Dプリンターを使った方が安くなる条件としては、小ロットであることが背景にあります。
大量生産を行う場合は当然金型のほうがよいですが、一般的にたくさん作る必要がないもの(主に義歯や義眼などの個別に作る必要がある製品)については、非常に強みになります。
しかしながら、新規医療は保険適用外になることもあるため、その関係で普及までは長い時間がかかるということが難点です。
未来へ向けた医療技術の進展
世界的に再生医療についての言及が多く、マテリアル(材料)も研究段階となっています。医療を支える新たな手法として、2022年時点では、3Dプリンターで作られた人工血管を、人に移植するという臨床実験が行われています。一般的にパイプの役割を担うものは、患者の細胞から作ることが一般的ですが、それが困難な場合においては、3Dプリンターで作られた人工血管が使われます。
従来の人工血管は「詰まりやすい」「感染症にかかりやすい」というリスクがあります。
それらの問題解決策として、期待が高まっている分野でもあります。
また、治療薬開発のためにも3Dプリントされた人工血管は活躍しています。
日本医療研究開発機構によると、がん治療では低侵襲がん診断を目指しています。
また軟性内視鏡を導入することを掲げており、非常に樹脂などの柔らかい素材と相性がよいですね。
世界的に見たところでは、切除などで失った部分を、3Dプリンターで造形して治すといった手法が多いです。
日本にすでにあるような、模擬手術や診断への利用との併用が進めば、より助けることが出来る人が増えるのではないでしょうか。
同じがん研究の事例では、弊社の3Dプリンターを使って作られたマイクロニードルによって、化学療法剤を患部の正確な位置におくることで、がん細胞の内部に浸透させることに成功しています。(薬物送達効率は、従来の静脈投与法の10倍以上の成果)
また、質量増加が50~70%あったところ、一切臓器に影響を与えないという結果も出しています。
まとめ
医療の研究は日々進んでいます。主に内科で活躍が期待されている3Dプリンターですが、導入後のコストは非常に低く、オーダーメイド製の製品プリントや、低侵襲の製品を再現することに非常に長けています。
診断を正確に行うことができ、より安全性に優れた医療サービスを提供することが出来るだけではなく、従来の方法では改善することが出来なかった病状も、解決することが出来る可能性を秘めています。